愛とお塩とスパイス

儚いから美しいの?

舞台「あずみ 戦国編」を観劇したお話。

 

舞台をやる上で身長は大事なひとつの要素だと思う。腹の底から声を出し周りを圧倒し劇場の注目を一心に浴びるためには身長が高いことで損は無い。実際私の好きな舞台役者さんたちはみな身長が高い。

 

だから、川栄李奈さんが、アイドル出身の小柄で華奢で152cmしかない可愛い彼女が、舞台あずみを演じることは圧倒的不利な中の挑戦なんだと思っていた。

 

 

2015年に再演された「あずみ 幕末編」は日程が合わずに見に行くことができなかったけれど、AKB48時代に知り合った彼女のファン友達がこぞって「李奈ちゃん可愛かったよ」と感想をくれていたのを爪をかんで我慢したので今回戦国編が再演されると知るやいなやブルーシアターの真ん中22番のチケットを無心にクリックしていた。

 

結論から言おう。「可愛い李奈ちゃん」はいなかった。22番の目の前にいるのはあずみであって、「んふふ」と肩をくすめて笑う152cmの小さな可愛い李奈ちゃんはいなかった。あずみだ。少女から女性へと変わりゆくあずみがいた。うきはからの恋心や身体の変化すべてに戸惑いながらも懸命に生きるあずみが、六本木ブルーシアターのあの瞬間に確かに生きていた。

 

 

以下ネタバレを含みます

 

第43回小学館漫画賞を受賞した小山ゆうの人気漫画「あずみ」、好評を博した舞台化の再演である。「あずみ」は1994年から2008年にかけて小学館ビックコミックスペリオール」にて連載された人気漫画で、単行本は全48巻までで累計1000万部以上を売り上げている。

2005年の上演時には、あずみを黒木メイサが演じ、「なぜ愛する人たちを殺さねばならないのか」を悩み苦しみながら「大義」のために戦い続ける姿が見る者の胸に迫るものがあった。今回は2005年以来の「戦国編」の再演となります。演出は、初演と同様、「新幕末純情伝」「東亜悲恋」などの演出のほか、プロデューサーとしても多数のヒット作品を世に送り出している岡村俊一が手掛ける。

 

2005年に黒木メイサがあずみを演じたのは16歳。20歳を超えた川栄李奈があずみを演じるのは…という点については彼女のビジュアルからなんの問題もないのがおわかりいただけるだろう…

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原作の漫画を読んだことがないのだけれど舞台のDVDや映画を見る限り川栄李奈はあずみに嵌っている役だと思うんだ。(贔屓目って言われそうだけど)

 

内容はかなりのオリジナルストーリーらしい。らしいというのも、脚本がすんなりと納得できたので違和感を感じなかったし原作のあずみを舞台を見終わってから読もうと決めてからそろそろ1ヶ月たつのだが、この際読まなくてもいいのではないかと思うぐらいには岡村さんがつくるあずみが私の中で揺るがないものになっている。

 

時に慶長五年、関ヶ原・・・。合戦の傷跡も生々しいこの地に、赤子の泣き声が響き渡っていた。生きる術を持たぬその子を拾い上げたのは、「枝打ち」という密命を負った小畑月斎。

そして十年後、月斎の育て上げたあずみ、うきはは、仲間と共に豊臣恩顧の大名を次々と暗殺してゆく。

加藤清正の重臣井上勘兵衛、またその忍びの頭・飛猿はいち早く味方の大名を狙う刺客の存在に気が付く。
大坂城では、味方の大名を次々に暗殺され淀の方が怒り狂っていた。
これから家康と天下をかけて戦おうというこの時に、総大将たる豊臣秀頼は、戦いにまったく興味を示そうとしない。
天下を再び手中に収めるには、なんとしてもあずみを討ち取らなくてはならない。

刺客には刺客を・・・。あずみを斬るために勘兵衛は、人を斬ることだけが生き甲斐という一人の手練れ最上美女丸を呼び寄せる。なぜ、オレは人を斬らなければいけないのか・・・。初めて感じた、人を斬るということへの恐怖。

己に課せられた過酷な運命に翻弄されながらも、次々と人を斬っていくあずみ。
数々の出会いと死別・・・。そしてついに始まる戦。そのとき、あずみの選んだ道は・・・?
あずみが己の使命の果てに見いだしたものとは・・・?

 

要するのに、人を斬ることだけを目的に育てられた美少女あずみ(=川栄李奈)とうきは(=鈴木拡樹)が戦いながら生きてくうちに、本当に生きるとは何か考え傷つき悩んでいくストーリー。

主演の川栄李奈は今更な気もするけれど、元AKB48チームK11期のアイドル出身の女優で、最近だと デスノート Light up the NEW world 青井さくら 役 として出演している。

また私は存じ上げなかったのだが、うきは役の鈴木拡樹さんは弱虫ペダルや刀剣乱舞といった今はやりの2.5次元俳優らしい。

そして今回私がかなりの期待を抱いて見つめていた人物(もちろん一番は川栄李奈さんですヲタクなので)あずみとうきはの敵、美女丸役の早乙女友貴さん。兄の、早乙女太一さんが好きでたびたび舞台を見に行ってるのだけれど、よく登場する綺麗な顔の男性という認識しかなくて実際の兄弟だということをつい2年前ぐらいに知った。今年9月に天王洲銀河劇場で行われていた、もののふシリーズ『瞑るおおかみ黒き鴨』を当日突然チケットをもらい開演とギリギリに滑り込むというなんともスリリングな観劇をしたのだけど、好みのお芝居をする人がいる……あ!早乙女友貴さんだ!!となるぐらい彼の静かな演技を好んでいる。

 

実際お話が始まってからも美女丸の渾身のお芝居は鳥肌がたった。人を斬ることにしか喜びを感じることのない最上美女丸の狂気と長い髪の毛を揺らしてしなやかにでも強く動く姿は美女丸そのもので、小さい子が見たら泣くよなーなんて小並感溢れる感想しか出てこないほど圧倒された。殺陣も希薄に満ち溢れていて如何に苦しみを与えながら命を奪うことを楽しみとしているのか、人を斬ることだけに集中した一切無駄な動きがないあずみとうきはとは対極的でそれが一層恐怖で美しかった。

 

と、ここまでいきなり推し変したかのように美女丸について語ってしまったけれどもちろんあずみも文句無しに良かった。

若い舞台女優が大声を出す演技をすると、どうしても金切り声になってしまって、わたしはそれが苦手なんだけれども、あずみは腹の奥深くからの叫びで、それはあずみがの男だとか女のとかそんな概念に囚われずただ刺客として生きる姿が映し出されているようで劇中なんども息を飲んでしまった。

 

あずみとうきは達は刺客として、人を斬ることを目的として育てられるから、本当に世の中に疎くて、男女だとか、恋心とかそんなのを教わずに生きているんだけれど、年頃になって、この気持ちがなんなのかわからないまま(恋心を)うきはがあずみに気持ちを伝えて、わからないまま受け止めようとするあずみのふたりが本当に初々しくて恥ずかしくて嬉しくて焦れったくて、悲しくて。

 

うきはは斬られて死んでしまうだけれども、倒れながら「あずみの口に俺の口をくっつけてみたい」って呟くんです。キスしたいでも抱きたいでもなく、口と口をくっつけてみたい。こんなにも綺麗な欲情を表す表現が日本語であったなんて、、、

 

きっと、黒木メイサや映画版の上戸彩のあずみをみてきた方たちはアイドルあがりの彼女が演じるあずみに最初は戸惑ったとおもう。

 

でもこのあずみは女優川栄李奈の宣戦布告だと思う。殻を敗れ生きろ勝ち取れ。また舞台であなたを見させてください。

今回の、あずみが女優川栄李奈の代表作になることを願って。

 

 

あずみ~戦国編 | 公式サイト

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